「虎の威を借る狐」の心理

心理

「自分はこんなに凄い人と親交があるんですよ」

と明かすことで、自分も権威を持とうとする。

「虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)」ということわざは

そういう心理を指します。

聞いたほうは、「ふーん、そうなんだ!この人とお近づきに

なると結構いい事あるかも!」と思うかもしれませんし、

「ああそうなんだ、だから何?」とそれぞれ心の中で

思うかもしれません。

けれどもまさに「虎の威を借りたほう」は

自分は権力者と仲が良いのだ、と考えたり伝えたこと自体で

満足します。

それはなぜか?ということを今回は掘り下げていきましょう。

虎の威を借る狐の由来

そもそも、これは中国の故事が由来になっていますね。

キツネがトラに食べられそうになったとき、

「私こそ天帝の遣いであるのに、その自分を食べるなどとんでもない。
自分を食べたら、あなたは天に背くことになりますよ。

信じられないなら、ついてきなさい。
私を見れば百獣が恐れおののき逃げ出すのですから」

と言いました。

そしてトラがそれを確かめるためにキツネについていくと、
確かに皆、逃げ出していくのです。

(それはそうですね、みなキツネを怖がって逃げていくのではなく
トラが傍についているので逃げ出すのですから)

 

・・・・というお話です。

つまり、キツネ自身になんの力もなくても、

トラが傍にいれば獲物にされることもなく、

「ここまでの強者を連れて歩いているなんて」と

それだけでキツネ自身も一目置かれるでしょう。

理想化転移

心理学者コフートが作った「理想化転移」という言葉があります。

理想化自己対象転移」とも呼ばれます。



たとえば治療者と患者の関係性にあり、

「自分がすごい人に治療してもらっていると考えるだけで、

自分まで価値のある人間のような気がする」

といったような感情を引き起こすものがこの

理想化転移」です。

理想化転移を起こしやすい人物というのは、

「そういう対象」を求めているだけでなく、

「そういう対象にならない」人物というのを排除しやすい

傾向にあります。

つまり、自分に関わった治療者が「明らかに権威者ではない」、

オドオドして、一見自信がなさそうで、こちらの出方をうかがっている。

といったような態度をとる場合、

適当な理由をつけて自分の傍から排除しようとします。

「あの人は、何も分かっていない」とか

「大した仕事ができない」とか。

けれども実際には、「自分の気分を害した」というだけではなくて

「患者ー治療者の関係は上ー下なのだから、

権威者の下でいたい。権威者でもない人間の下にはいたくない」

「だって、それだと自分は価値がないと言われているような

気がするから」

というような心理が働いていることが非常に多いのです。

凄い先生が、自分に時間を使ってくれている。

自分を担当してくれている。

自分は、それだけ価値のある人間なのだ。すごい人間なんだ。

それだけを実感したいがために、

自分が理想化できるような決まった担当者だけを

傍に寄せようとする人も珍しくありません。


その人とたまたま治療者ー患者という関係があるだけで、

自分も偉くなったような気分に人はなれます。

それは病院の治療場面だけでなく、

「あの企業の講師が自分のコンサルタントを担当していたんだよ」とか

「昔あの有名人と懇意にしていたんだよ」と

自慢したくなるのは理想化転移を起こしている状態といえます。

理想化転移は誰にでもある

「虎の威を借る狐」、つまり理想化転移は

誰にでも起こりえる心理状態です。

それ自体に問題はないとコフートも言っています。

つまり、誰か憧れの人物がいたとして、

そういう人と自分はこういう接点があったんだ!

仲良くしていたんだ!と心の中で思うということは

何も異常なことではないということです。

ただ、その自慢が過ぎるようなことがあれば

たちまち人間関係に躓くでしょう。

理想化転移と人間関係の問題

「実は、あの人とちょっと食事に行くような関係なんだよね」

と打ち明けられたとして、

それに対して「自慢?」と不快に思う人というのは

少なからずいます。

そうなると、もうその時点でコミュニケーションに陰りが

見え始めます。


言っているほうは「自分も偉くなったような気分」と満足しますが、

言われたほうは「自分もそれだけ偉いんだから

大事にしてよね!ってこと?

あなたとは別次元の存在なんだよってこと?」

と一種のマウントと捉えかねないからです。


ただ理想化転移を起こしやすい人の場合、

あまり他者からその行為に対してどう思われているか

ということを気にしません。

それよりも「自分はこういう人と親しい」という

その事実を他人に触れ回ることやそれを実感できる・

体験できる事そのものの価値を見出します。


しかし頻回にそれを繰り返すようだと、

上述のようにそれを不快に思う人がどんどん増えていきます。

故事とは違い、キツネはキツネであって

トラではないことを皆知っているからです。

まるで自分にも権威があるように振舞えば、

ただのずる賢い人にしかみえないでしょう。

そうやって、そのやりとりだけでコミュニケーションが

どんどん破綻していくことも大いにありえるのです。


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